Archive for 6月 18th, 2010

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• 金曜日, 6月 18th, 2010

夢を見たのではない。幻を視たのでもない。縁側に蹲って、夜の闇に眼を泳がせている時、不意に、一人の男の姿が見えた。あるいは、私の脳裡に浮かんだものが、闇の中に投影されたのかも知れない。とにかく、大地に立っている一人の大男を視たのだ。兵隊のように大地に直立し、大きく開いた両足は、地面の砂利に突き刺さっていて、両手は、天に向かって伸び、眼を見開き、鮭のように開いた大きな口から、真っ赤な、長い長い舌を出していた。父だった。

今しがた、四国の弟から電話があった。平成21年1月2日、夜、10時47分、父が死にました。そうか、と静かに電話を切って、独りになりたくて、縁側に出た。

共感覚とでも言うのだろうか?弟の声に呼応するかのように、父の画像(イメージ)が発生した。私自身は、ちっとも不思議がることもなく、自然に、父の画像を受け入れた。父の大きく開けた口からは、真っ赤な、長い、長い舌が伸びてきて、私に迫ってくるのだ。何か、大切なことを、必死で、訴えているらしい。舌は、波のように揺れて、どんどん、どんどんと伸びてくる、まるで、一匹の生きものだ。その舌の上には、無数の文字が刻まれている。時空も揺れていた。距離も、時間も、ゆがんでいて、一切が、不定であった。

名状しがたい、その経験は、私にとっては、実に、自然であるのだが、おそらく、詩にも、小説にもならない。不思議を、そのまま語れば、文章にもならぬ。私は、夜の、冬空のもとで、ふるえながら、いつまでも、消えない父の画像を眺めていた。いったい何を伝えたいのか。

翌朝、電車に乗り、新幹線に乗り、バスに乗り、父のもと(?)へ帰郷する間も、眼を閉じれば、父の画像が来て、真っ赤な、長い長い舌が、活き活きと蠢めき、私に迫ってきた。もう、一年にもなるが、一周忌の法事が終っても、その姿は、現れた時のままで、私に、舌に書かれた文字を読み解くように、要求している。

身体や形質は、遺伝する。声で伝える思想もある。しかし、このような形での伝え方を、何と呼べばいいのだろうか?

父の、もうひとつの遺伝子が、最期の挨拶でも送っているのだろうか。私は知らない。私の、父への、唯一の返礼は、真っ赤な、長い長い舌に書かれた文字を、いつの日か、読み解くことである。

平成22年(3月4日)記

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• 金曜日, 6月 18th, 2010

手軽に読めて、ズキンとくるこのあなどれなさがいい。ワクワクする。これは、高度な挑戦だと思います。どうも「エクリチュール」の極限は、このアフォリズムに尽きるのではないでしょうか。
未知との遭遇に向かって突き進んでいる、何かの暗号・コードに招かれている神聖な行為(創造・創作)メッセージを感じされられます。感動ものです。

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• 金曜日, 6月 18th, 2010

約千にのぼるアフォリズム集、いちおう目を通させていただきました。
まるで惑星の煌きのように、ひとつひとつが自在な輝きを放ちながらも一定の運行の下にコントロールされた、まさに重田ワールドが眼前にせまってくる思いでありました。

それは、感服であったり、共鳴であったり、戦慄であったり、瞠目であったりしますが、貴兄の思考・思弁の軽やかなダンスに魅了されていることに他なりません。

小生の勝手な希望を言わせてもらえば、このアフォリズム集に、素晴らしい挿絵があったらな・・・ということです。
たとえば、ミロの絵のような明るい抽象的な、リズム感のある挿絵があれば、相乗的に重田ワールドの魅力がさらに広がるように思うからです。

出版を心から待望しております。

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• 金曜日, 6月 18th, 2010

1. 「白川静読本」(平凡社刊)
2. 「フエルマーの最終定理」(新潮社文庫刊) サイモン・シン著
3. 「宇宙創成」上・下(新潮社文庫刊) サイモン・シン著
4. 「事象そのものへ!」(新装復刊) 池田晶子著 トランスヴュー
5. 「詩のかおり詩のひびき」(Obunest刊) 壬生洋二著
6. 「西脇順三郎詩集」(思潮社刊)
7. 「新約聖書 訳と注① マルコ福音書 マタイ福音書」全6巻(作品社刊) 田川建三著
8. 「漢字」(岩波新書刊) 白川静著
9. 「孔子伝」(中公文庫刊) 白川静著
10. 「中原中也の手紙」(講談社文芸文庫刊) 安原喜弘著
11. 「何処へ」「入江のほとり」(講談社文芸文庫刊) 正宗白鳥著
12. 「アムバルワリア」「旅人かへらず」(講談社文芸文庫刊) 西脇順三郎著
13. 「クオンタム・ファミリーズ」(新潮社刊) 東浩紀著

今月は、心が悲鳴をあげている。日々のリズムが狂ってしまって、平常心でものを考えられない。
ニンゲンの規格から外れてしまうほど大きい「天命反転」という思想を掲げて、「私は死なない」と言い放ち、「死ぬのは法律違反です」と断言した荒川修作が、ニューヨークの病院で死んだ。(死んだ?)(アラカワの死)それはいったい何だろう。
頭が上手く、考えられない。現在、荒川の「ヘレン・ケラーまたは荒川修作」(マドリン・ギンズ共著)新刊読んでいる途中であった。腰を据えて、アラカワに立ちむかいはじめているところだから・・・。
「免疫の意味論」の著者、多田富雄氏も死んだ。ニンゲンを、超・スーパーシステムだと、論じた「本」は、実に、刺激的な一冊であった。

※350年間、誰も解けなかった「フエルマーの最終定理」を読む。数という魔に挑む天才数学者の物語である。サイモン・シンの語りが見事である。
「宇宙は数である」と思いたくなる本であった。

※「事象そのものへ!」池田晶子の思考の原点。新装版を再読。止まらない。魅力。

※中原中也の手紙は、詩人の素顔があって、愛読者にはうれしい。

※「詩のかおり詩のひびき」壬生洋二著は、私の大学時代の同人誌「あくた」の仲間の「本」である。70年代の、まだ、詩、小説、思想を語り合う場があった時代に、著者が愛読した詩人たちの「詩」を紹介している。中也、朔太郎、達治、石原吉郎など。若者にはおすすめの解説書。

※白川静の「本」を熟読。

さて、現代人にとって、宗教とは何だろう。雑誌「考える人」で、聖書研究者の田川建三の特集があった。
私は、若い頃、「原始キリスト教史の一断面」と「イエスという男」「宗教とは何か」を読んで、共感、感動、驚愕し、日本にも、古代の原書を読み、一生を、聖書研究に捧げる人がいるのを知った。宗教するニンゲンの生きざまを見た。その田川建三氏が、インタヴューで「神は結局、存在しない」と断言している!!
超一流の研究者の言葉は重い。キリスト教信者にとっては、大変なショックだろう。
しかし、その時代に、宗教が必要だったことは、認めてほしいと言っている。千年、二千年たっても、ニンゲンは、(宗教的)なものを必要とはしているのだ。

その田川建三氏が、「新約聖書」を翻訳して、解注をつけた。全6巻、(現在刊行中)
「聖書」は断片的にしか読んでいないが、田川さんの訳なら、一生かけて、読んでみようと思った。古代人の文字を読みかえすのに、何十年もかけて、宗教を考えて、実戦してきた田川建三氏の大仕事である。

<数>の謎に一生を捧げて挑み続けたアンドリュー・ワイルズ。
<漢字>の研究に生涯を賭けた白川静。
<キリスト教、聖書>の研究が生きることである田川建三氏。
<昆虫>昆虫を観察してでも人は一生を生きられるという感動をくれたファーブル。

(ニンゲン)が生きるという姿が輝いている。