Archive for the Category ◊ 読書日記 ◊

Author:
• 月曜日, 2月 22nd, 2010

1. 「海の家族」(土曜美術社出版販売刊) 中村純詩集
2. 「海の血族」(土曜美術社出版販売刊) ささきひろし詩集
3. 「メール症候群」(土曜美術社出版販売刊) 渡ひろこ詩集
4. 「一日一書」(新潮文庫刊) 石川九楊著
5. 「無量の光 上・下」(文芸春秋社刊) 親鸞聖人の生涯 津本陽著
6. 「武満徹−自らを語る」(青土社刊) 安芸光男聞き手
7. 「蕪村俳句集」(岩波文庫刊)
8. 「喪の日記」(みすず書房刊) ロラン・バルト著
9. 「学問のすすめ」(岩波文庫刊) 福沢諭吉著
10. 「福翁自伝」(岩波文庫刊) 福沢諭吉著
11. 「遠雷」(河出書房新社刊) 立松和平著(再読)

「零度のエクリチュール」という(知)を放って、記号の帝国を読み解いた、あの、時代の、最前線を歩いていた、ロラン・バルトの面影は、一切ない。「喪の日記」は、バルトの裸の声である。おそろしいほどの断絶である。(知と情)
切断された断面には、マモン(母)に恋いこがれて、二人の世界・生活を、老年になるまで守り通した男の、突然のマモンの死・不在に、嘆き、悲しみ、涙の日々をおくる、異様なロラン・バルトの姿がある。

まるで、幼児か、少年のように、おろおろして、心も空になり、「喪の日記」を綴る、この、正視に耐えぬ混乱は、いったい、どこから来るのか、あの、(知)の塊りを書き続けた、ロラン・バルトは、いったい、どこへ、姿を隠したのか。

母の子宮から、永遠に離れられない。マモンに、理想の女を見て、結婚もせず、二人の生活が、完全な宇宙であるかのように、生きてきた、そのセイカツの中から、フランスを、時代を、伐り開く、エクリチュールが生れたと、誰が、信じられるか、この分裂する男、禅経症に揺れる、老いた男に。

Author:
• 金曜日, 1月 15th, 2010

1. 「人生の色気」(新潮社刊) 古井由吉著
2. 「西鶴の感情」(講談社文芸文庫刊) 富岡多恵子著
3. 「世界漫遊随筆抄」(講談社文芸文庫刊) 正宗白鳥著
4. 「美濃」(講談社文芸文庫刊) 小島信夫著
5. 「戦後短編小説再発見」(講談社文芸文庫刊) 小島信夫著
6. 「ブレイク詩集」(岩波文庫刊) ウイリアム・ブレイク著
7. 「そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります」(講談社文庫刊) 川上未映子著
8. 「イスラーム文化」(岩波文庫刊) 井筒俊彦著
9. 「意識と本質」精神的東洋を求めて(岩波文庫刊) 井筒俊彦著
10. 「日本書史」(名古屋大学出版会刊) 石川九楊著
11. 「生きて、語り伝える」(新潮社刊) Gガルシア、マルケス著
12. 「水死」(講談社刊) 大江健三郎著
13. 「ひべるにあ島紀行」(講談社文芸文庫刊) 富岡多恵子著
14. 「親鸞 上・下」(講談社刊) 五木寛之著

今年は十二分に読書を楽しめる年になりそうである。
10年に一度、出会えるか出会えないかという、大作が出版された。
石川九楊著「日本書史」である。700ページ、A4版という大冊でもあるが、もう、「本」というよりも、命を削って彫りあげた作品だ。
「書」をめぐる作品を、良寛から詩人、吉増剛造まで、論じている。普段は、「書」に関して、あまり熱心ではない私も、「『書』は文学である」という著者の声に導かれて、読みはじめている。人が、10年、20年かけた、考察は、もう、書の研究というレベルを超えて、人間とは何かという次元にまで昇華されていて、圧倒される。文学、書、漢字、その姿、形、意味、意識、思想へと直進する作者の眼は、磨ぎ澄まされて、「無」をも吸収しているのだ。

仕事とは、命懸けの作業である。衝突し、破壊し、崩れ、融合し、合体し、「書」に寄りそう真摯で温かい眼差しは、書に、人そのものを発見する。

半年、一年かけて、舐めるように、触れてみたい「本」の出現である。定価18,000円も、安いものだと思う。

井筒俊彦の「意識と本質」は、思想の深淵を歩行する、人類の知の結晶である。イスラム教を中心に、禅、仏教、そして、マラルメの「絶対言語」、芭蕉の俳句と、東洋思想から、西洋思想まで、とにかく、(知)の人、井筒俊彦の著作は、一生涯をかけた人の、歩みが、堪能できる、本格的な論考だ。

そして、何時読んでも、魂を感じさせてくれるブレイクの詩。
自由自在に時空を超えて語る、90歳を過ぎても、筆の衰えを見せなかった、「美濃」小島信夫の小説。
今回は、語れば限りがない作品ばかりだ。

Author:
• 日曜日, 12月 06th, 2009

1. 「動的平衡」(木楽舎刊) 福岡伸一著
2. 「思考の補助線」(ちくま新書刊) 茂木健一郎著
3. 「エレファントム」(木楽舎刊) ライアル・ワトソン著
4. 「夜明けの家」(講談社文芸文庫刊) 古井由吉著
5. 「人とこの世界」(ちくま文庫刊) 開高健著
6. 「世紀の発見」(河出書房新社刊) 磯崎憲一郎著
7. 「生きる勇気・死ぬ元気」(平凡社刊) 五木寛之VS帯津良一著
8. 「隠者はめぐる」(岩波新書刊) 富岡多恵子著
9. 「食・息・心・身」の法則(成甲書房刊) 阪口由美子著
10. 「名づけえぬもの」(白水社刊) サミュエル・ベケット著
11. 「ヘヴン」(講談社) 川上未映子著
12. 「乳と卵」(講談社) 川上未映子著
13. 「わたくし率 イン歯−または世界」 」(講談社) 川上未映子著
14. 「死とは何か」(毎日新聞社刊) 池田晶子著
15. 「私とは何か」(毎日新聞社刊) 池田晶子著
16. 「思考する豚」(木楽舎刊) ライアル・ワトソン著
17. 「先端で、さすわ さされるわ そらええわ」(青土社刊) 川上未映子著
18. 「残光」(新潮社文庫刊) 小島信夫著
19. 「ドン・キホーテ」(岩波文庫刊) セルバンテス 前3巻 後3巻
20. 「父・藤沢周平との暮し」(新潮社刊) 遠藤康子著

読書は、瞬間爆発の快感と、読み終えたあとの、長く尾をひく、燠火のような燻りと、二つの愉しみがある。

発想一発の驚きは、長い時間がすぎてみると、色褪せるものが多いが、静かな文章は、その味わいがじわじわと利いてくる。先日庄野潤三氏が死んだ。「記録もひとつの文学である」という信条で、日常のなに気ない事柄を淡々と描き続けた。事件も、事故も、作為もない、無作為の文章は、静謐であった。合掌。

文章の姿が、そのまま人柄に、生き方に、そして、思想にもなる、いい例である。

逆に、見事なまでに、読者の眼を、思考を揺さぶり続け、新しい事象の地平をきりひらいてきたライアル・ワトソンも逝った。「豚」と「象」をテーマにした、最終の作品は、まるで、自らの生いたちを語る小説そのものだった。夢をありがとう。
 

Author:
• 土曜日, 8月 08th, 2009

1. 「柄谷行人 政治を語る」(図書新聞刊) 柄谷行人著
2. 「昭和史」(平凡社刊) 半藤一利著
3. 「終の住処」(新潮社刊) 磯崎憲一郎著
4. 「千と千尋の神話学」(新典社新書) 西條勉著
5. 「総会屋錦城」「鼠」「落日燃ゆ」「毎日が日曜日」「気骨について」(新潮文庫) 城山三郎著
6. 「荒川修作の軌跡と奇跡」(NTT出版) 塚原史著
7. 「建築する身体」(春秋社刊) 荒川修作+マドリン・ギンズ著
8. 「死ぬのは法律違反です」(春秋社刊) 荒川修作+マドリン・ギンズ著
9. 「三鷹天命反転住宅」「水平社」~ヘレン・ケラーのために 荒川修作+マドリン・ギンズ著
10. 「意味のメカリズム」(西武美術館刊 緑箱社作) 荒川修作+マドリン・ギンズ著
11. 「荒川修作を解読する」(名古屋美術館 読売新聞社刊)
12. 「足摺岬」(講談社刊) 田宮虎彦作品集
13. 「多世界宇宙の探索」(日経BP社刊) アレックス・ビレンケン著

本格的に「荒川修作」を読みはじめる。
奇人・変人・異端者・天才・画家・建築家・思想家と七変化する「荒川修作」に邂逅できたのは、大きな喜びであった。

イエス・キリストの「復活」、空海の「即身成仏」、仏教の「輪廻転生」、ニーチェの「永劫回帰」と並んで荒川修作の創出した、「天命反転」−「私は死なないことに決めた」も、21世紀の人類が生みだした、途轍もない宣言である。これから、じっくりと、考えてみたい。

8月1日(土)−「写真ワークショップ in 三鷹 天命反転住宅」があるというので、「死なない家」を訪問してみた。
(後で体験談を紀行文・エッセイで書いてみたい)

Author:
• 火曜日, 5月 26th, 2009

死ぬまでに、もう一度、ドストエフスキーの、四大長篇小説と「地下室の手記」を読んでみたい、それが、長年の私の夢だった。「罪と罰」「悪霊」「自痴」「カラマーゾフの兄弟」。魂を震撼させる書物があることをはじめて知ったのが、ドストエフスキーの作品だった。

本の力というよりも、人間が考えられる、もっとも上質な思想、あらゆる問題が、(お金が、酒が、病気が、権力が、性が、家が、愛が、宗教が、永遠が・・・)ぎっしりとつまっていて、心臓がパクパク、頭がヒリヒリと熱をもち、心は揺れに揺れて、読む前と読んだ後では、自分が、別の人間になってしまったと思えるほどの、おそろしいリアリティに満ちていた。全身が、ドストエフスキーの言葉に痙攣を起こして、火傷をして、歩き方まで変わってしまうほどの体験であった。脳を手術されるほどの衝激であった。

長い間、その声と思想の火は、私の中に、燠火のようにくすぶっていて、生き続けていた。

60歳まで生きてきた。40年前の、20代の、青春の真っ盛りで読んだドストエフスキーを、今の私が、どう読むだろうかという、再読の期待があった。

平凡に生きてきた人間であっても、波風が立ち、砂利を噛んだり、病気や怪我とつきあったり、事故に会ったり、人生のあれやこれやは、人並みに、充分に体験してきた。もう、20才の、日常生活を知らぬ青二才ではない。生きてきた眼で、ドストエフスキーを読めば、どう読めるだろうか、そういう期待もあった。

最近、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」が10万部も売れているというニュースを聴いた。本が売れない。本を読まない。そういう時代に、誰が、どんな理由で、ドストエフスキーを読んでいるのだろう。いったい、何が起こっているのか?

確かに、21世紀の人間は浮遊している。殺人の残忍さ、不況、自殺、倒産、汚染、新インフルエンザ・パンディミックの不安と、毎年毎年、いや毎日毎日、人の心を暗くさせるニュースには事欠かない。

ゆったりと、おおらかに、長い人生を噛みしめながら、日々を生きている、そういう姿には、長い間、出会ったことがない。

心が泡立ち、ささくれ立ち、苛々して、いつも、棘が咽喉に刺さったように、人々は、生活をして、生きている。日々の、小さな、心の叫びまで、大きな時代の波に呑まれて、不安の海を漂っているふうに見えてしまう。

ヴィジョンもなく、目的も定まらず、存在が稀薄になり、その場その場を、どうにか生きている。不安の時代だ。

しかし、それでも、人は、私とは何者か、何処から来たのか、何処へ行くのかと考え、考え、生きていく動物である。

言葉がいる。

大理石のような、堂々とした、あらゆるものがある、ドストエフスキーの言葉が求められている。

読書、その本の言葉を生きてみる−それは、「現実」の体験に次ぐ、もうひとつの力である。

今年から、気のむくままに読んだ本の感想と、本の紹介をしてみようと思う。現在、人間の社会で、何が問題になっているか、どんな人が何をテーマーに書いているのか、人間の考えがどのくらい進化しているのか、ひとつの地図を、私なりに作ってみようと考えている。

平成8年10月から平成9年4月までの読書。
1. 「寡黙なる巨人」 多田富雄著
2. 「日本語が亡びるとき」 水村美苗著
3. 「小説・世界の奏でる音楽」 保坂和志著
4. 「白川静−漢字の世界観」 松岡正剛著
5. 「魂とは何か」 池田晶子著
6. 「忠臣蔵」 秋山駿著
7. 「伝説の編集者・山厳浩を訪ねて」 井出彰著
8. 「空海の企て」 山折哲雄著
9. 「光の曼陀羅」 安藤礼二著
10. 「筆に限りなし・城山三郎伝」 加藤仁著
11. 「国家の罠」 佐藤優著
12. 「自壊する帝国」 佐藤優著
13. 「インテリジェンス人間論」 佐藤優著
14. 「邪馬台国とは何だろうか」 眞木林太郎著
15. 「あれかこれか」 壬生洋二著
16. 「その夏・乳房を切る」 篠原敦子著
17. 「やわらかなこころ」詩集 坂本京子著
18. 「鴎外はなぜ袴をはいて死んだのか」 志田信男著
19. 「ポジティブ・スイッチ!!」 KIMIKO著
20. 「脳のなかの文学」 茂木健一郎著
21. 「裁判員制度」 丸田隆著
22. 「アジアのなかの和歌の誕生」 西條勉著
23. 「徒然草」 吉田兼好著 (再読)
24. 「土佐日記」 紀貫之著 (再読)
25. 「肝心の子供」 磯崎憲一郎著
26. 「メキシコの夢」 ル・クレジオ著
27. 「生命・形態学序説」 三木成夫著 (再読)
28. 「生命形態の自然誌」 三木成夫著 (再読)
29. 「時間と自我」 大森荘蔵著
30. 「トルストイの幼年時代」 トルストイ著
31. 「トルストイの少年時代」 トルストイ著
32. 「トルストイの青年時代」 トルストイ著
33. 「罪と罰」 ドストエフスキー著 (再読)
34. 「悪霊」 ドストエフスキー著 (再読)
35. 「風土記」 久松潜一校注 (再読)
36. 「古事記」 三浦佑之 (口語訳)
37. 「哲学とは何か」 ジル・ドゥルーズ/フェリックス・ガタリ共著
38. 「人生劇場」 尾崎士郎著
39. 「ユリシーズ」 ジェイムス・ジョイス著 (再読)
40. 「四国八十八ヶ所感情巡礼」 車谷長吉著

私は、本を読む時、私がスパークした文章に会うと、本のページの右、左の上を折るようにしている。再読する時、あらためて、考える時に、便利だから。つまり、ページを折る箇所が多ければ多いほど、私の感動する量も多かったということになる。私の評価が高い、私にとって、必要だ、価値がある本ということになる。

読み終えた40冊を論じたり、考えはじめると、何冊もの本を書かなければならないほどだ。感想は、紹介は、ひとつの提起にすぎない。次回から、地図を作りはじめたい。
5月21日