Author:
• 火曜日, 11月 04th, 2008

会場は、お城のように見えた役場の庁舎の中にあった。バレーボールもできるほどの、広い体育館が庁舎の中にある。

雪の降る中を、三三五五と、参加者の村人が集ってきた。意外なほどに、人々の顔は明るく、声を掛け合い、何かを期待している人の顔だ。北の国の人々にとって、一時、厳しい生活の場から離れて、都市から来た講師・先生の話に耳を傾け、自分自身の身体の声を聞き、汗を流し、(生活)の場の外の時間をもつことは、子供と同じように、楽しいことなのだと思う。

長い冬に立ち向かう為、先生の指導に身を委ねて、日常生活で役に立つ知恵を得る絶好の機会なのだろう。

今週の講師は、スポーツ選手の、故障や身体の不調を改善している、小柳先生である。

北海道は、医療費が高い。猿払村も、例外ではない。役場の課長さんは「わが村でも、医療費の問題は、ずっと、頭の痛い問題で、今まで、いろいろ試みてはみましたが、なかなか効果のでる決め手がない。ヘルスアップは、国をあげての新しい事業だから、わが村でも、是非、意欲的に取り組んで結果を出したいですね」

猿払村では、国民健康保険課はなくて<協働まちづくり課>が推進している。その名前が(村人)全員で作りあげていく(村のかたち)と目的を、とても、良く表していると思う。

課長、補佐、保健師、若い職員と、スタッフ全員が協力して<事業>を実施する。専門的な部分はアウトソーシングで札幌市の大和産業がその責任を背負っている。

受付が終わると、身体測定、アセスメント、血圧測定、お腹周りの測定(メタボリックシンドローム)と、人手のかかる作業が、1時間ほど続く。

筋トレ、リハビリを長く手がけてきたスポーツマンであり、体力づくりのベテラン講師である。小柳先生の元気で大きな声が、体育館の中に響きわたった。

ストレッチ体操で全身をほぐしたあと、ウオーキングの実践授業に入った。正しい姿勢、フォームから足の運び方、着地方法、腕の振り方など具体的に、改善してくれる。大きな輪になって、ぐるぐる、ぐるぐると歩いて廻る。もっと早くスピードをあげて! 先生の声が飛ぶ。さあ、脈拍を測ってみよう。どうなっているかな? 120を超えている人、そうそう、どのくらい歩けば自分の身体がどう変化するか、覚えるんだよ。

顔が紅潮して、息があがっている人、熱気で室内の空気がむんむんしてきた。

「先生、質問。4カ月も雪で、スピードをあげて外を歩けません。室内で出来る方法も教えて下さい。」

階段や椅子を使った運動、筋トレ、冬の間でも役に立つ、実行可能なメニューが次から次に紹介される。笑い声、喚起があがり、4時まで全員が汗を流した。

「さて、次に来る時には、どうなっているのか楽しみですね。毎日の生活の中で、頑張りすぎないで、少しずつ実行して下さいね」

個人個人が、自分自身の為の目標をたて、記録し、書くことで、日々の行動に変化を与えていくのだ。

猿払村で気になるのは、周辺の市町村では、どこも、糖尿病が一番多い疾病であるのに、(高血圧症)が一番である点だ。塩分の多い食生活の改善も急務だ。運動と食事、二つの車輪が上手く廻ってこそ、生活習慣病の予防が可能となる。しかし<習慣>を変えるのは、本当にむつかしい。生活する為に身につけたのが<習慣>である。その<習慣>を変える。塩っぽいものが好きだ、甘いものが好きだ、運動は苦手だ。自分の身につけた<習慣>が悪いとわかっても、その<習慣>を変えることに、大きなエネルギーが必要なのだ。だから新しい、行動変容理論が生まれた。

肥満の人に、肥っていると病気になると、食べものに気をつけなきゃという昔風な教え方では誰も耳を傾けない。

指導者も、また、勉強し、進歩しなければならない。

もうひとつ、意外に思ったのは、猿払村の高齢化率は23%で、30%・40%が普通である地方の市町村とはちがっている点だ。いったい何があるのだろう?

村では、広大な土地での酪農、畜産が盛んで、大学で、専門学校で勉強して<農業>を夢見る若者たちに、土地を解放しているのだ。だから、若者たちが、放牧、酪農の夢を見て、猿払村へと移住してくるのだ。学んだことを、実践できる場が<猿払村>という舞台なのだ。北の漁場で、広大な北の大地で、若者たちが活躍する場を<猿払村>は用意していたのだ。 (つづく)

Category: 北海道, 紀行文
You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.
Leave a Reply