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• 金曜日, 1月 31st, 2020

①(社会の言葉=ネーミング)と(文学のコトバ=評論)の探求と考察に生きた人。
②「一言半句」に作者の意図を読み込んで、人間を、社会を、世界を発見しようとした人。
③不幸は、突然やってくる。訃報も、突然、舞い込んでくる。11月のある夜、会員の中津川丹さんから、突然の電話。「安藤さんが亡くなりました。」絶句。ただ、悲しい。
④咽喉が渇き、鼓動が早くなって、胸が痛んだ。二階の書斎にあがって、8月に、安藤さんから届いた、一通の長い手紙と一冊の本を机の上において、読み直してみた。深呼吸をして、「般若心経」を三回唱えた。
⑤ヒトはあらゆるものに名前をつける。星に、山に、川に、草に、魚に、もちろん、人間にも、ていねいに。安藤さんの仕事は「会社」に「商品」に名前を付けることだった。その傑作は「セシール」。主著『ネームングは招き猫』。単なる実用書ではなく、「言葉」の発見の書。(社会の言葉で)
⑥「読書会」には、いつもユニークなレポートと解釈、そして珍しい資料持参。青春の「大岡昇平『野火』論」は、見事な、文学のコトバで。(稲門会、図書館の会、年六回出席)
⑦早稲田に入って「文学」を学ぶと、誰でも一度は、作家、詩人、評論家を志すものだ。黒田夏子は『abさんご』で芥川賞受賞(史上最高齢75歳で)。下重暁子は、元NHKの美人アナウンサー。70歳を過ぎて、エッセイ集がベストセラーに。早大、国語国文(教育)卒で、ともに、安藤さんの同級生。
⑧晩年は、「読むこと」に生きて「書くこと」に生きて、「読書会」を魂の交換の場所としていた。「文学の本」を執筆していた安藤さん、出版事情が叶わず、断念。残念無念。「幻の本」に。
⑨「一言半句」の審美眼の人、いつも、物静かだが、心を貫く棒の如き意志の人。私の最後の、送るコトバは、魂よ、安らかなれと「ニルヴァーナ」である。
(岐阜県出身・早稲田大学教育学部国語国文卒 享年84歳2019年10月7日永眠)
(「四街道稲門会だより」より転載)

(注)「幻の本」が、作者・安藤貞之さんの死から四ヶ月たって、見事な一冊の「本」になりました。
タイトルは「樋口一葉を世に出した男ー大橋乙羽」です。日本初の編集者の評伝です。(百年書房刊)
一人でも多くの読者に安藤貞之さんの声がとどけば、と念しております。

Category: エッセイ
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