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• 木曜日, 4月 28th, 2016

1. ニンゲンの死は、悲しみであろうか(人間原理の)不思議であろうか(宇宙原理の)

2. 「家(うち)には、持たせるもんが、なんちぁないさかいなあ」女は、嫁入りの朝、母親から、新しい風呂敷包みを、ひとつだけ手渡された。(内には、尋常高等小学校の成績書が一枚入っていた。オール甲で、一番だった)

3. 「実に見事な身体だ。惚れ惚れするな。兵士になる為に、生まれてきた男だ。」男は、徴兵検査の日、試験官たちに、全身を撫で廻された。とびっきりの甲種合格で、砲兵として、中国大陸へと送り込まれた。

4. 父が死んだ。二人目の父も死んだ。老いた母と六人の弟妹が残された。男は、十二歳で自転車に乗って、土方に出た。愚痴も文句も悲しむ暇さえなかった。毎日毎日一日千回、ツルハシを振りあげ、スコップで土を掬い、砂利をモッコで運び、玄能で石を割った。大男の肉体は筋肉繊維で弾んだ。

5. 「熱(あず)っても、熱(あず)っても、百姓は楽にならん」軍隊は、戦場は、男の第二の学校であった。(敵を殺すこと、人を組織すること、火薬を扱うこと)男は、軍隊の経験をもとにして、建設会社を設立した。弟二人を従えて。日本列島改造のうねりが足元にあった。道を開き、堤防を築き、橋を架ける、生涯だった。

6. 男は、背が高くて、賢い娘を、嫁に探していた。

7. 女は、男からの縁談を断り、断って、逃げて、逃げて、逃げ廻ったが、母と叔母の執拗な説得に根負けして、隣村へと、橋を渡った。(頑強で、男前、悪い男ではないと)

8. 「同じ人間でも学がないと辛い」子守り、お手伝い、店番、女中、と。そして、土方の親方の女房となった。子供たちは、大学まで行かせてほしいと、女は男に約束させた。

9. 「死者は玄関からは出さん」樒の葉で水を含ませ、棺には、金剛杖、草履、お米、お金、孫たちの写真、俳句の雑誌を入れた。叔母が庭先で、お茶椀を割って、引導を渡した。

10. 死顔に、こんなにも美しい”微笑(ほほえみ)”が浮かびあがるものであろうか?一切の”苦”が洗い流されていた。「今度は、あんたらの番やな」

11. 小さな村のお寺の庭も道も橋上も、弔い人であふれていた。約二百人。人好きで、話好きで、機知(ユーモア)のある人柄が、縁の結びの多さをあらわしていた。「やよいさん、ええとこ行きよ」一人の老婆が、白い菊を、棺に入れて、呟いた。(本当に、お世話になりました)

12. 男は、私の父、女は、私の母、地球で、縁あって、生命のバトンを、受け取った。誕生も、生も、死も、宇宙の(量子の)不思議な縁である。最後のコトバは、さようなら、ではなく、ありがとう。

(2015年10月3日母永眠 享年92歳)

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