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• 金曜日, 10月 01st, 2010

−幸運な魂の交流−

本書は、歌人・福島泰樹と作家・立松和平の魂の交流の書である。

はじめに、序歌「春の盃」71首が、立松の霊に捧げられている。1970年、大塚での邂逅からはじまって、今年2月、突然の立松の死去に至るまでの、約40年の、立松・福島の交流が、短歌となっている。

「出会いたる70年を想うかな今更ながら春の雷」
「遠雷はいまだ聞こえずわがめぐり立ち去り難くまた吾もおる」

立松の来歴そのものが、福島のやさしい眼によって、(歴史)となっている。友の声である。

第一章「泰樹百八首」は、作家・立松和平が、歌人・福島泰樹の、青春の絶唱を読み解いている。散文家が、歌人の核に迫る時、そこに、どんな火花が散るかが、一番のスリルであった。人に添い、状況を読み、時代を貫く、透明な棒のようなものに、立松の心が触れる。論じる、論じられる関係は、もちろん、真剣勝負である。
二人は、作品を通じて、日常生活を通じて、四十余年、同志として、文学の革命に、汗を流し、お互いに、鼓舞し合うという幸運な朋輩であった。

第三章「俺たちはいま」は、福島、立松の対談である。「早稲田文学」で出合い、出発した二人は、もう九十年代には、振り返るほどの作品をものにしていて、お互いの、創作の急所を、語りあうほどの、作家、歌人としての地塁を築いている。

第四章は、福島による、立松の小説群の分析と評価である。愚直に、青春の、全共闘時代を引き受けて、生きる姿勢とその作品に、福島は、拍手を送っている。

そして、第五章は「さらば、立松和平」 鎮魂の書である。
立松の人柄、交友関係、時代の状況が、史的に語られる。
死者は、すでに、読まれ、語られる者になった。いつも、ニコニコ、決して怒らない、他人の悪口はいわない、真摯な立松和平の立姿が、くっきりと、浮かびあがり、文学の終生の友、福島泰樹との熱い心の、魂の交流があふれている。
お互いが、創造者であり、よき読者であるという、小説家と歌人の、終生の交わりが一冊の本になった。

立松和平は、幸せ者である。語り継いでくれる友、福島泰樹がいるから。
                                                              10月1日                                                                

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