Archive for ◊ 8月, 2009 ◊

Author:
• 土曜日, 8月 08th, 2009

簡素で単色、実直な文体で普通の人の生きる姿を描いていた作家・城山三郎
−生ける人間の真形を追う現場主義の作家によって描き出された城山の姿−

(小説=本)は、もうひとつの(宇宙)である。謎は深ければ深いほど面白い。ポーという(宇宙)。ドストエフスキーという(宇宙)。

一人の作家の頭脳に発火したものが、核となって、種子に育ち、様々な花を咲かせる、想像力+思考+推進力による小説は、ポーの独壇場である。見事な(宇宙)だ。

小説は自由な器である。何を盛り込んでも、どのように書いてもかまわない。しかし、作家の資質や才能とは違った次元で、時代がその作家を呼び、時代が新しい作家をつくってしまうことがある。

カポーティの小説「冷血」は、まったく新しい時代の、新しい小説の登場を告げるノンフィクションノベルの最高峰であった。ある殺人事件の取材から、犯人の逮捕、そして死刑まで、同時進行で執筆するというスタイルは、(現場)における(事実)の重みが、旧来の小説の想像力を叩き潰してしまうほどのスリルとリアリティに充ちていた。読者の心臓と、作家たちの頭脳を叩き割るほどの衝撃作の出現だった。

作家の思想・思考力・文体が、もの書きの心臓だと思われていた小説世界に、(事実)というものが露出して、文学作品の強度とリアリティを獲得した。つまり、(現場)には、核となる(事実)の断片があって、歩くことで、作家は、小説世界のリアリティを、より補強できるようにした。取材、見る、聞く、調べる、考えるという、足による発見の時代が到来した。(もの)が語るのだ。作家にとって、取材・創作ノオトの作成は不可欠になった。

加藤仁は、全国を歩き、3000名以上に会い、インタビューをして、ノオトを執り、作品の種子と、一声を断片の中から掬いあげて、「本」を書いているノンフィクションの作家である。『待ってました、定年』は、日本の来たるべき、超高齢社会を見据えて、長いサラリーマン時代、その後に続く、長い長い人生を生き抜く、普通の人々の姿を追い、人生の喜怒哀楽を表出して、話題になり、世に、加藤仁の存在を知らしめた作品である。

加藤仁が、城山三郎伝を書いた理由は、二つだと思う。城山も、また、トルーマン・カポーティの小説「冷血」によって、ものを書く人である。取材、現場主義の(事実)の重み、普通の人間の生きる姿を追うという、誠実な作家としての共鳴がひとつ。もうひとつは、文学不毛の地、実業の都市名古屋出身という点で、両者は、同じような空気を吸って育っているということ。

加藤は、作品論・作家論ではなくて、作家として、人間としての城山三郎を追っている。なぜ城山三郎は、作家になったのか。果たして、作家としての日常、生活者としての城山は、どういう人間であったのか。(作家も、また、生活者であって、特別な存在ではない)

司馬遼太郎は、天下国家を、政治を、神の視点から、(知)として、描き、三島由紀夫は、華麗なる文体で、思想−美を、狂おしい世界で描き切った。

城山は、簡素で、単色で、実直な文体で、普通の人の生きる姿を描いた。加藤の共感はそこにある。

一万二千冊の蔵書、取材ノオト・メモ・書簡、日記・知人・友人へのインタビューと、加藤仁は、(事実)の森の中から、城山三郎の生きた姿を据えて、その像を形にしようとして随分と汗を流した。

城山は三島由紀夫の小説「絹と明察」を、モデル小説でありながら(現場)のリアリティ不足と書評で全面否定し、三島が激怒したエピソードは、取材・創作ノオトを重視した三島が、結局は人物を借りて、自らの思想・美学を描いているにすぎぬと、気骨を示した。(事実)は必ずしも(現実)ではない。少なくても小説にとっては。

お金の神さまが誕生し、ものが氾濫し、サラリーマンがあふれて、(日常)がせり出して来た時、城山の「経済小説」は、大量の読者を得ることになった。いわば、共感の書だ。

しかし、政・官・財の大物たちを主人公に小説を書きはじめた時、時代の子となった城山は、微妙に変質する。

城山も、加藤も、結局は、生きる人間の真形を追う現場主義の作家である。問題は、どちらの(宇宙)が深いか、謎であるかだと思うのだが。

Category: 書評  | Leave a Comment
Author:
• 土曜日, 8月 08th, 2009

1. 「柄谷行人 政治を語る」(図書新聞刊) 柄谷行人著
2. 「昭和史」(平凡社刊) 半藤一利著
3. 「終の住処」(新潮社刊) 磯崎憲一郎著
4. 「千と千尋の神話学」(新典社新書) 西條勉著
5. 「総会屋錦城」「鼠」「落日燃ゆ」「毎日が日曜日」「気骨について」(新潮文庫) 城山三郎著
6. 「荒川修作の軌跡と奇跡」(NTT出版) 塚原史著
7. 「建築する身体」(春秋社刊) 荒川修作+マドリン・ギンズ著
8. 「死ぬのは法律違反です」(春秋社刊) 荒川修作+マドリン・ギンズ著
9. 「三鷹天命反転住宅」「水平社」~ヘレン・ケラーのために 荒川修作+マドリン・ギンズ著
10. 「意味のメカリズム」(西武美術館刊 緑箱社作) 荒川修作+マドリン・ギンズ著
11. 「荒川修作を解読する」(名古屋美術館 読売新聞社刊)
12. 「足摺岬」(講談社刊) 田宮虎彦作品集
13. 「多世界宇宙の探索」(日経BP社刊) アレックス・ビレンケン著

本格的に「荒川修作」を読みはじめる。
奇人・変人・異端者・天才・画家・建築家・思想家と七変化する「荒川修作」に邂逅できたのは、大きな喜びであった。

イエス・キリストの「復活」、空海の「即身成仏」、仏教の「輪廻転生」、ニーチェの「永劫回帰」と並んで荒川修作の創出した、「天命反転」−「私は死なないことに決めた」も、21世紀の人類が生みだした、途轍もない宣言である。これから、じっくりと、考えてみたい。

8月1日(土)−「写真ワークショップ in 三鷹 天命反転住宅」があるというので、「死なない家」を訪問してみた。
(後で体験談を紀行文・エッセイで書いてみたい)