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• 水曜日, 7月 08th, 2009

国会の答弁で、総理大臣麻生太郎が、幾度か、漢字の読みまちがいを犯した。政治家は自らのヴィジョンを言葉で表現し、実行する、それが生命の仕事である。TVや大新聞でも話題になり、麻生総理は、政治家としての格を下げた。元総理大臣の小泉純一郎は「漢字が読めなくても、総理になれる、変人でも総理になれる」と講演で、笑いながら話をした。

日本人は、日本語でものを考える。

日本語は、漢字・カタカナ・ひらがなの混ったユニークな文章からなる。英語は、音に意味のある言葉で、文字には意味がない。

漢字は、文字そのものが意味をもっている。

だから、単なる読みまちがいでは済まされぬ問題が発生する。一つの漢字にも、いろいろな読み方がある。音(声)と形(意味)の双方が、正確に表現されないと、正しい意味が通らない。

総理大臣の答弁が、実際は、官僚が書いたものであっても、声に出して、読み、発表(発言)するのは、総理大臣本人であるから、単なる読みまちがいでは済まない、深刻な問題となる。

最近、若い人が、本を読まない、文章が書けないという話をよく耳にする。何時の時代でも、自分のことは棚にあげておいて、最近の若い者は、漢字が書けない、文章が誤字ばかりだと嘆く老寄りがいる。

実は、齢をとると、物事を忘れるばかりではなくて、漢字が思い出せなくなる傾向がある。

ひとつには、パソコン・ワープロの普及で、キーボードを叩けば、文字が出てきて、選択して並べば、文章になる−その便利さに大多数の日本人が慣れすぎた為だろう。

手紙を書く人も少ない。簡単なメールや電話で用が済む。

十年、いや二十年ほど前から、電子文字の出現で、漢字が書けなくなったと嘆いている会社員がいたのだ。

で、「漢字検定」がクローズアップされた。漢字を知る、文字は、単なる記号ではなくて、意味を含んだ言霊である。漢字を知れば知るほどに、表現の幅はひろがり、正しい意味を伝える文章が書ける。レポートを書く、人と対話する、論文を読む人−漢字の知識は、日本人には不可欠な、空気や水である。

ちなみに、今年度のベストセラーは、漢字に関する本で、百万部を突破したという。

さて、本書は、漢字の研究に一生を捧げ、白川学と呼ばれる思想にまで築きあげた、白川静の全体像を、現代の(知)の名編集者・松岡正剛が書き下ろした入門書である。

松岡正剛の名は、若い頃、特異な雑誌「遊」の編集者として知り、後に「空海の夢」を読み、その(才能)に注目している。世の中には、南方熊楠・空海と博識強記の人間がいるものだと感嘆する。白川静−松岡正剛も、その系譜に属する人たちである。

「字統」「字訓」「字通」は、決して、天才ではない人が、生命がけで学問に精をを出せば、ここまで到達できるものかと、生きれば生きるほどに深まる思想の世界に、息を呑み、赤貧の、生活苦の中から、揺るぎない白川学を樹立した強靭な精神に感動すら覚えるものだ。

「漢字は世界を記憶している」

漢字の発生から、古代文化から、東洋の思想から、そして、漢字という国語をうみだした気の遠くなるような(歴史)という時間を追う白川静を、(知)の人松岡正剛は、一般の人にも解るように、パラフレーズしている。

好きで好きで、楽しんで、三度の飯よりも漢字の研究を貫き通した白川静−一冊でも読んで見る価値はありますよ。あなたの人生にどうぞ。

Category: 書評
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