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• 木曜日, 6月 06th, 2019

読書会を始めてから7年、開催回数は、平成30年度末で26回になります。年4回程度の開催です。主に日曜の午後、2時間半の予定ですが、しばしば延長。開始当初は、四街道市文化センターを借りていましたが、ここ数年は、四街道市立図書館のご厚意により、同図書館の3階会議室で行っています。

参加者は、当会会員10~15名です。交流の意味で、近隣稲門会の会員の方も見えています。固定メンバーが大半ですが、フレッシュな参加者もいます。出身学部は文学部、というわけではなく、理工から政経、法、商、教育、とさまざまです。さらに、元文学青年、文学関係者もいますが、高校卒業以来、はじめて小説を読む、という方もいます。いい意味の「多様性」だと感じます。

講師は、当会会員の重田昇氏です。私は、重田さんを超える読書会講師はいない、と思います。ごく簡単なプロフィールです。徳島県の出身で、大学在学中から小説を発表し、作家で身を立てると周囲からは思われていました。ところが、卒業後、実業界に身を投じ、会社を興し、順風満帆の職業生活を送られました。還暦を迎えたころ、会社経営から身を引き、作家生活へと転身されました。今は、出身地徳島を舞台にしたライフワークの小説やアフォリズムの作品に取り組み、文学講師として各方面から呼ばれ、講演等もされています。以上の経歴だけでも、稀有ですが、私が一番感心するのは、読書会での姿です。参加者の話をしっかり聞いて、ソフトに明るく楽しく、丁寧に答えています。文学者や作家というと、頑固で自己主張の強い人、というイメージがありますが、重田さんは、どんな人でもそらさずに、しっかり、会に包みこんでくれます。この会が続いてきた最大の秘訣は、重田さんのこの人柄のおかげです。なおかつ、文豪のエピソードや、作家の収入や生活、家族との関係、出版事情、文学賞の裏側など、マスコミでは聞けない知識も満載で、実に話題豊富な講師です。

読書会のテキストについては、講師の重田さんが選んでいます。古典から最新の文学賞受賞作品、日本文学から外国作品の翻訳まで、こちらもさまざまです。これまでのテキストと作家をご報告します。

⓵『黒い雨』井伏鱒二 ②『入江のほとり』正宗白鳥 ③『異邦人』カミュ ④『金閣寺』三島由紀夫 ⑤『痴人の愛』谷崎潤一郎 ⑥『江分利満氏の優雅な生活』山口瞳 ⑦『地下室の手記』ドストエフスキー ⑧『ひかりごけ』武田泰淳 ⑨『蝉しぐれ』藤沢周平 ⓾『月山』森敦 ⑪『黒猫』エドガー・アラン・ポー ⑫『楢山節考』深沢七郎 ⑬『門』夏目漱石 ⑭『雪国』川端康成 ⑮『徒然草』吉田兼好 ⑯『ヴェニスの商人』シェイクスピア ⑰『砂の女』安部公房 ⑱『abさんご』黒田夏子 ⑲『人間失格』『津軽』太宰治 ⑳『輝ける闇』開高健 ㉑『イワン・イリッチの死』トルストイ ㉒『青春の門』五木寛之 ㉓『奥の細道』松尾芭蕉 ㉔『トリエステの坂道』須賀敦子 ㉕『日の名残り』カズオ・イシグロ ㉖『地獄変』『歯車』『或阿呆の一生』芥川龍之介

会の進め方は、講師によるテキストや作家の説明のあと、参加者が自由に感想を発表しています。内容は、千差万別です。大好きな作品だ、原作の映画化を見た、作家と郷里が一緒で小説の舞台がわかる、から、何を書いてあるかわからない、つまらない、まで何でもありです。敷居の高くないのが、きっと、いいのでしょう。でも、重田講師からは、「もう大学の文学の講座を修了したくらいの内容になっていますよ」と言われています。確かに、文学史、文体論、作家論、言語表現、小説・随筆・古典作品についてなど、文学上の重要テーマも、いつの間にか網羅されています。

実は、この読書会の他に、2年くらい前から、四街道市立図書館主催の市民向け読書会が年2回(4回開催)行われています。同図書館長より、当会及び重田さんに依頼があり、重田さんが講師、座長として務めています。当会の趣旨である「地域社会への貢献」に沿っています。定員15名で、30代から80前後までの老若男女が集まるため、稲門会以上に多様で、テキスト選びも難しいそうですが、皆さん、とても熱心だそうです。ちなみに、市民読書会のテキストは、①『破船』吉村昭、②『仮面の告白』三島由紀夫、③『草枕』夏目漱石、④『楢山節考』深沢七郎、でした。

最後に重田さんの言葉(抜粋)です。
~若いときには“読書”は(知)の楽しみ、生きて齢を重ねると“読書”はココロの(愉楽)である。~

本(テキスト)は、もうひとつの宇宙である。本を読み込むことは、時空を超えて、コトバ宇宙に至ること、コトバ世界を生きることである。

「本」は、もう一人の友である。しかも何時でも、好きな時に会える友である。ページをめくって、コトバを読みさえすれば、会うことができる。(私)一人では、生きられなかった人生の世界の、宇宙の貌を見せてくれる。 

『四街道稲門会だより設立10周年記念号』より転載